2017-10-29

グラサン 第 1 号

子宮について


待ってると数字になってほっとしたずっと貧血だったこと他

妊娠のための袋、と婦人科の火曜日午前午後の先生の

主人公らしさを増してマフラーは巻いたまま玄関で話した

子宮ごと切る、切らないに尊重を極めてひとは任せると言う

鞘師さんを産みたかった、と言っているふつうの人も何人かいた

ひとりずつがルールみたいに雨を見るひとが入っていく会議室

女の子で食べてと箱を渡されて空気だったら面白かった

見ていると気付かれないで見比べるよい条件で生きていること

うれしい誤算うれしい悲鳴春の雨ひとが椅子ごと近づいてくる

七時間歌える喉よ妊娠を望んだことはこれまではない




水曜日


子宮筋腫 日記 全摘 腹腔鏡 芸能人にも助言する人

休暇を頂きますと頭を下げて休み明けにお菓子を持って出社するのだ

川と海T字に混ざり水だけが光れるように光ってる朝

手術室までは歩いてかけてきためがねを家のひとにあずけた

三方活栓を一つ足している最初から繋いどけよという高い声

病棟の看護師さんがバスタオルに下着を回収しながら下がる

水曜日全裸以外の全員が仕事でここに立っていること

医師免許がほしいと思うその上で「自分で切りたかった」と思いたい

手を握る麻酔科の医師だれの手も握るのだろうあたたかかった

だれかと足され二で割られたらどうだろうもしもわたしがルンバだったら

昼の電車にわたしが食べているグミのぶどうは遠くまで匂うんだ




電脳短歌イエローページ


自分が好きなわたしは強く、毎日はもらってみたら好きだった花

顔だけが残る ポスターは破られてどうせカラスがやったのだろう

短歌研究に現代農業並んでて「アザミウマうまく叩く」背表紙

脳が着信しているように目が覚めてざわざわとしてまた眠る

石を剥くみたいに何をあんなにもだれかに見せたがっていたのか

うがいは声か音か聞こえてほっとする家で二〇一六年の夏であなたで

退院して家にいるのに退院したら何が食べたかったかみたいな話

わたしが寝たら本を読んだりするのだろうお菓子の引出しを持っていく音

売ってたら買ってもいいか聞いとけばよかったなってあなたは思う

一本も歯がないような百年後電脳短歌イエローページ



(「グラサン」 第 1 号 2016/12/04)

2016-10-16

元気かどうか

見ていても元気かどうかわからずにぶどうを全部食べてしまった

SIMカードの入っていない旧姓を宛名に届いている年賀状

迂回して家路を急ぐ人間をもりもり運ぶエスカレーター

どうだろう、わたしの分のコーヒーに砂糖を入れて味見するひと

わからない寝ずに出かけてゆくひとの不気味な薄着元気かどうか

正解の靴が他から浮き上がりはじめましてと言った日のこと

ダイソーのホワイトボードに描いた猫と吹き出しのそのそとの行ってくる



(「短歌研究」2016年2月号)

歌集「七月の心臓」について

2016年3月、コンテンツワークス社のオンデマンド出版サービス終了に伴い、
歌集「七月の心臓」はお求めいただくことができなくなりました。

2015-03-15

めがね

うまくいってよかったねってでもいつも心を込めるのはあとになる

次の次で降りるめがねと知っていてわたしの前に立っている人

少し古い形だけどと言われてる似合ってるからつまらない服

重ねるとすべる感じの紙だとは思って生きてきて今日の紙

過ぎた駅が薄いグレーになっているわたしに期待してもいいのに

このひとが世界にいればいいひとでいっぱいの胸のトリエンナーレ

お風呂かと思うくらいに海が近いこれだけ言って光ったらごめん


(「北冬」No.015)

2013-05-08

どのくらい遠くを

総務のこたちががやがやいっている あした バーニャカウダ パーティー

与田さんはナガオカさんになるといういいね楽しそう二音も増えて

いつも同じワンピース着て写ってるまだ母親でない頃の母

重い楽器みたいなここでこの雨を飛び出していくやさしい女

鳥はどのくらい遠くを絶対に行くことのない山を見ますか

ぶつかって謝りながらまっすぐにディズニーに行く女の子たち

百年後も日曜日ってあるのかな どこかで満足して折り返す



(「NHK短歌」2012年10月号 ジセダイタンカ)

2012-04-06

2012-01-02

短歌5首

風邪薬のいろんな箱を見ていたら客観的な他人の意見

真由美ちゃんはまゆと呼ばれたがっていた 消え残ってる寂しい記憶

ふさふさとカレンダー掛け新しい年を家族で待っていた頃

スプーンで栗きんとんを食べている誰にも見られないでわたしは

1000年くらい行って静かに振り返るコートについていた紐がない

2011-08-11

短歌4首

前を行く男の人がはいているとうもろこしの柄のスカート

包むのが楽しいという顔をして店員さんが包んでくれる

ずっと好きでいられたらいいそれだけだ青信号がずっと続いて

服は買えても馬車がないからあきらめたわたしに午後の長い長いお茶

2011-08-02

2011-03-23

短歌1首

明日にもこぶしの花が咲きそうで腕を伸ばしてシャッターを押す

2011-02-21

2011-02-05

2010-12-05

短歌1首

きょうはそんな寒くないかも窓から手出して触ってみる風の腸

2010-11-28

短歌2首

縦横に吊り革下がる東京の電車に乗っている日曜日

噴水を止めて下さい寒いから日が暮れそうで苛立っている

2010-11-24

短歌2首

心配して損した記憶心配して損した記憶心配をする

   母は伊予の人
お雑煮のお餅何個か聞くようにみかんを勧めてくるお母さん


短歌1首

朝食に芋ようかんを食べている夜のんだ風邪薬効いてる


2010-11-23

短歌1首

木の高さがよくわからない熱のあるあたまのなかでするみかん狩り


2010-10-17

短歌1首

歩道にも車道にもわりとどこまでもどんぐりどんぐり落ちている道

短歌1首

やはりまだふしぎどっちがもっている鍵でも家のドアが開くこと

2010-08-29

短歌3首

わたしの今もタイルのように嵌まりつつ未来から見て過去である場所

八月の蟻がどんなに強そうに見えるとしてもそれは光だ

お墓から電話をかけているひとの横顔とそのお母さんのお墓

2010-08-26

短歌1首

昼休みにコーヒー豆を買ってきてアロマアロマで午後を乗り切る

2010-08-22

2010-08-17

短歌1首

二つずつしかない食器わたしいつかあなたを殺したりしないかな

2010-07-28

短歌1首

影のあるところまで退き信号が青になるのを待つプログラム


2010-07-26

短歌4首

どんなふうに思い出すだろう使わない名刺を刷ってもらったことを

花火から花火へ渡す火のような仕事のような 女の仕事

働いてお金をもらう働いてお金をもらう 海からの風

他人にも心があるということをいつ知ったのだろうかわたしは

短歌1首

立ち上がると海が見えるということを教えてもらう島村さんに

2010-07-20

短歌5首

濡れているように重たい食パンを二枚並べるけさは涼しい

長い買い物のリストの中にばかみたいに朗らかに二度出てくるみりん

ちょっとずつひととおり盛るどうなれば勝って上がれるのかわからない

唯一の選択肢だと思ったら輝きだして夏のダイソー

日傘が重いくらいに蝉のあの道をまた通りたいまたいつかふたりで


2010-07-18

短歌5首

旧姓のシャチハタが捨てられなくて押せるだけ押してみた白い紙に

ひさしぶりやな痩せたんちゃうあんた エリーゼの黒いのばかり食べる弟

おかあさん 電話ボックス 洗濯機を外に置いてた頃の実家だ

あたたかい石のベンチに寝転んでどうなることもなく丸い雲

これからもさみしいうそをついていく東西南北一枚の空


2010-07-17

短歌5首

ちょっとずつ惜しいわたしの人生の畳の上にティファールがある

玄関は前より広く折り畳み傘の匂いをかいでいる人

同じものがほしいと思う前の家で履いていた百均のサンダル

アンコールに応えるためにほんとうは歌を多めに用意していた

持って行くはずの包みを開けているご挨拶ののし紙を外して


2010-05-06

短歌1首

ゴールデンウィークという高枝切りバサミ 手伝うようなじゃまするような